獣医師 太田快作先生からの
三農生へのメッセージ
獣医師 太田快作先生
高校生の皆さん、こんにちは!
東京のハナ動物病院の、太田です。
本当はここに来て、みなさんとお話ししたかったのですが、あいにくコロナウイルスに感染してしまい、来れなくなってしまいました。
ごめんなさい。
ですが、せっかくなので少しだけ、皆さんにお伝えしようと思います。
地域猫については、先ほど僕の後輩にあたる、北里大学の学生さんたちが、素晴らしいプレゼンをしてくれたと思います。
僕からは、今までもこれからも多くのことを学び、そして社会に出て、この社会を担っていく皆さんに、僕が皆さんくらいの頃から、どんなことをして今ここで皆さんにお話しする機会をいただくようにまでなれたかを、お話ししたいと思います。
僕が皆さんの歳の頃は、本当にただの動物好き、生物オタクでした。
高校では生物部の部長もやりました。
すごく楽しかったです。
進学にあたり、進路を考えました。
僕には生物しかなかったので、生物を学べるところに行こうと思いました。
生物学科なんかを見ていましたが、色々見ていくと、獣医学部が一番広く学べるという気がしてきました。
なので、とりあえず獣医学部に行って、とことん大好きな生物について勉強しようと思いました。
そしてその中で、一生学んでいきたいと思う分野を探してみようと思いました。
この時は動物病院をやるとは思っていませんでした。
学者になりたかったです。
学者になって、ノーベル賞を取りたいと思っていました。
さて、獣医学を学ぼうと十和田に来ました。
初めての一人暮らしです。
まずやりたいことがありました。
犬を飼う事です。
実家でも犬は飼っていましたが、自分一人で犬を飼いたいと思っていました。
そこで、保健所から、花子という犬をもらってきました。
めちゃくちゃ可愛い子でした。
この時から18年半、21歳から39歳までの間、一緒にいることになります。
でも僕は別に花子だけが好きなわけではなく、花子はもちろん特別でしたが、動物はなんでも大好きでした。
子供の頃から、子猫を見つけては、家に連れて帰り、親に怒られるということを繰り返してました。
もう親はいないわけですから、歯止めは効きません。
今は少し変わったかもしれませんが、当時の十和田は野良猫も多く、迷い犬もよく徘徊してまして。
歩いてて犬や猫を見つけたら、必ず連れて帰りました。
なぜかというと、好きだからです。
好きだから、心配になるんです。
ご飯食べれてるのかな?とか、冬は寒くないかな?とか。
なので、うちに来ればご飯もあげられるし、雨や風もしのげるから、よかったらおいで、みたいなノリです。
まあ単に触りたかったというのもありますが。
別に殺処分を減らそうとか、動物愛護とか、特に何も考えてませんでした。
ただただ、好きだっただけです。
そして動物好きに関しては、誰にも負けたくありませんでした。
だから、いくらでも来い!みたいな気持ちでした。
家に動物が溢れてきました。
このままでは次に出会った時に家に連れて来れなくなる、と思いました。
それがとにかく嫌でした。
動物に対して、何もできない自分は嫌でした。
どうすればいいか、まず保護する場所を増やすこと、そして、保護すべき動物が減ること、を考えました。
場所を増やすことはすなわち僕と同じように家で動物を預かれる人を増やすことでした。
犬部という名前を思いついて、人を集めました。
一緒に犬猫保護しませんか?
と言うと、同じように動物が好きな学生たちが集まってくれました。
保護すべき動物、つまり捨て犬や野良猫を減らすために、インターネットで色々調べたり、保健所の職員さんたちにも話を聞いたりして、どうすればいいかを考えました。
捨て犬は迷子のことが多いと聞き、迷子札を無料で配りました。
野良猫を減らすには、不妊手術をするしかないと聞き、捕まえて動物病院に運んで手術してもらいました。
でも当時、協力してくれる動物病院は岩手県にありました。
遠かったので、行けるチャンスも限られました。
また、普段保護している動物も当然病気になったりします。
動物病院に連れていけば、学生だからということで割引はしてくれますが、積もれば結構なお金がかかります。
僕も含め、メンバーは決して生活に余裕があるわけではありませんでしたが、みんなで出し合ったり、寄付を集めたりして賄いました。
もっともっと、こういう現状をわかってくれる、理解してくれる動物病院があればいいのにと、思いました。
でもなかったので、自分が作ろうと思いました。
そのためには動物の医学について、たくさんのことを学ばなければいけないと思い、卒業後は関東に戻って修行しました。
必死に勉強しましたが、学んでも学んでも、まだまだ知らないことだらけでした。
でも、元々学者なりたくて、一生学びたいと思えるものを探して大学に入ったので、一生勉強しなきゃいけないと思うことは、幸せなことでもありました。
そして、動物病院を始めました。
病院を始める目的であった、捨て犬や野良猫を減らす活動を徹底的に支援しようとしました。
すると、本当に多くのボランティアさんがきてくれて、いかにみんなが困っていたのかを感じました。
彼らにとって少しでも力になれるよう、さらに必死に頑張りました。
彼らからなるべくお金を取りたくなかったので、普通の犬や猫の飼い主さんがたくさん来てくれるよう、飼い主さんたちにいい病院と言ってもらえるよう、さらに必死に勉強し、できる限り誠実に診療をしていきました。
もちろん、未熟なゆえに、たくさんの失敗もしました。
患者さんの期待を裏切ってしまうこともありました。
でも、そんなことが少しでも減らせるように、ひたすら毎日、仕事と勉強を続けました。
そしたら、気が付いたらこんなところに呼ばれて、若い人たちに話をしてくれなんて言われるようになってました。
僕は別に自分が何者かすごい人になれるなんて思ってもいなかったし、今も思っていません。
でも、自分の好きなものに対してだけは、誠実でありたいと思っていました。
それが一生続けられたら、それはすごく幸せなんじゃないかと思っていました。
僕は動物が大好きです。
昔も、今も変わらずに。
それだけです。
皆さんも、自分の好きなもの、きっとあると思います。
今はっきりしなくても、いつか出会うと思います。
後になってわかることもあるかもしれません。
それが仕事かもしれませんし、趣味かもしれませんし、あるいは人かもしれません。
一つじゃないかもしれませんし、途中で変わるかもしれません。
そんなの人それぞれです。
でも、そういうものにもし出会えたら、それに対しては、絶対に誠実に向き合って、ただただそれを続けてください。
何者かになる必要なんてありません。
夢を持たなきゃいけないなんてこともありません。
平凡でいいんです。
ただの歯車でいいんです。
僕もただの街の動物病院の先生です。
別にどこにでもいます。
でもどんなことでも、胸を張っていいんです。
目の前のことに誠実に向き合ってさえいれば。
必ず幸せになれます。
大変なことや辛いことはもちろん必ずあります。
でも、それでも、その誠意を失わなければ、必ず幸せになれます。
信じてください。
皆さんの未来を楽しみにしています。
では、いつかどこかで!